みなみのしまのし

晴天の下、男は釣りをしていた。
いつものように魚の引きを待ち、いつものように適当な小魚が何匹か釣れて、男はいつもの道を歩いて、我が家の戸を開けた。







「おう、遠くからよくきた」
「・・・・ばあちゃん」





「ばあちゃんは、なんでここにいるの」
「ここで暮らしているからだよ。」



「いや・・・だって、ばあちゃん、去年の3月に死んだじゃないか」
「ここにいるものは、みなここで暮らすものだからさ」






自分の身体をまじまじとみる男。
手も足もある。指先の感覚もおかしくはない。
何も変ったところはない。



「そ・・・・そうか、僕は死んだのだね?」
「そうだな。でも、先までの土地に似て、ここもなかなか悪いところではないだろう。」



男は、もういちど自分の手と、その手に握られた縄と魚籠をみやる。
さっき釣ったばかりの魚。えらはもう動いていないものの、目はよく透きとおり、うろこのぬめりもまだ乾いていない。



魚籠を差し出しながら言う。
「あの・・・・これ、お土産。」
「おお、ありがたいね、おまえが釣ったのかい。ありがとう」



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